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上横マッピングとは

Bingの画像によるArmchair mappingでは、建物の詳細やPOIがうまく掴めない。大まかな形状は道路等は把握できるが、細かな点は見えないからである。一方、実際に現地でデータを写真や手書きで取る場合、詳細な情報は得られるが、建物等の描画がしにくいという難点がある。

そこで、両者を結合し、それぞれの利点を合わせ、より詳細な地図描画を行うのが上横マッピングである。

基本的な考え方

基本的には、Bing衛星写真によるトレース作業である。しかし、そのトレースする場所を水平方向から動画撮影し、建物の詳細情報を得、それをトレース作業時に付加する。Bingによるトレースにより、建物の形状をマッピングし、さらに動画を見ながら、付加情報を追加することで、その建物の種類や、店舗情報、その他POIをマッピングすることが出来る。

たとえば、Bingから見た写真では、単なる建物だが、横から見た場合、それが住宅なのか、アパートなのか、事務所なのかは分からない。しかし、横から見れば一目瞭然である。さらに、その建物内にある店舗の名前や、店舗の種類、更に付加的な情報をもマッピングが可能である。

もちろん、動画撮影によって付加的な情報は得られるが、動画情報だけだと、実際の地図とマッピングするのは難易度が高い。特に白地図状態になっている場所では、目印となるものがなく、どの辺にマッピングすれば良いかを把握するのが困難である。しかし、Bingと組み合わせることにより、場所の特定が容易となり、マッピングの効率があがる。

もちろん静止画で、POI等を得る事は可能である。特定のポイントにおけるPOI収集ではこちらの方が手軽である。しかし、一定地域全体の情報を取得するためには、数多くの画像を撮らなければならない。枚数が増えると管理が煩雑になる。しかし動画であれば、一連の流れとして画像を得る事が出来るため、管理が容易であり、また、前後関係もよく分かるので、撮影した地点周辺の状況を把握できるというメリットがある。

準備

機材

動画撮影可能なカメラ

機種は問わない。動画撮影が出来ればなんでもよい。但し、効率的に行うためには以下の条件を満たすものを使用することを推奨する。

  • 解像度
    可能な限り高解像度。理想は8K。が、さすがにこれは無理なので、AVCHD対応フルハイビジョン対応等、より高解像度な動画が撮れるカメラを推奨する。VGA解像度程度の場合には、大まかな情報は得られるが、店舗名等が取得できない(解像度不足)場合がある。また、Motion JPEG方式のような、圧縮効率が良くない画像形式では、長時間の撮影に問題が出てくる場合がある。
  • 画角
    可能な限り広角。35mm換算で28mm以下を推奨。できれば25mm以下。但し、広角にすればするほど画像が小さくなるため、文字等は読みにくくなる。また、画像にゆがみが出てくる場合があるので、建物等の形状を把握する場合には注意する必要がある。なお、あまり広角でないカメラを広角にする方法もある(後述)。
  • ズーム機能
    動画撮影中にズーム機能が使えるものを推奨する。必要に応じてPOIの詳細を得る事が出来る。
  • フレームレートが大きなもの
    できれば60p。ただし、60pと記述があるものでも撮影デバイスからの出力が30pになっているものもあるので注意。
  • フォーカス追尾
    移動中にフォーカスが追尾する機能があると便利である。無い場合には、撮影開始時に、ピントを合わせておく。

上記の条件は、比較的最新のデジタルカメラやデジタルビデオカメラではほぼ満たしている。好みのものを適宜選択されたい。

予備バッテリ

動画撮影は長時間に及ぶ場合もあるので、予備バッテリは必須である。

大容量記録デバイス

大量の動画データを格納するために、大容量記録デバイスは必須である。SDHCカードであれば、32Gバイトのものを複数枚用意することを推奨する。なお、より高速なカードであることが望ましい。

カメラを保持する器具

三脚やカメラクリップ等である。撮影方法によって適宜用意する。

場所の選定

場所はBingの画像がある所でないと意味がない。Bingの画像があるかどうかは、確認用のサイトがあるのでそこで確認する。注意すべきは、Bingの画像には解像度のレベルに差があることである。大都市中心部はかなり詳細な画像が提供されていて、家1軒ごとの細かな形状が分かる。しかし、少し離れた所では、家の大まかな形状が分かる程度の解像度しか提供されていない地点もある。出来るだけ高解像度の画像がある地点を選ぶ。

コースの選定

移動方法の決定

基本的に、移動時の速度が速いほど、カバーする領域は広い。そのかわり、細かな情報が得られなくなる。特にカメラから近い位置の情報は、ぶれてしまってうまく撮影できない場合が増えてくる。さらに、動画撮影後、それを上横マッピングするときにかかる作業時間が増大する。

また、撮影位置がある程度高い所の方が、情報が得やすい。そのため、電車、バスなどの交通機関を利用した方が、より多くの情報を得られる。但し、真下の情報を得るのは難しい場合があるので、やや遠目の情報を得る事が主体となる。また、交通機関を利用した場合には、コースが限定される。

動画を撮影するときの移動方法はいくつかある。

  • 徒歩
    一番基本的な方法である。この方法では、きわめて高精細にPOIを得る事が出来る。しかしながら、単位時間あたり撮影可能な範囲は狭い。都市部、特に密集した商用地域ではこの方法がお勧めである。
  • バス
    都市部を走るバスの場合は、スピードが遅く、徒歩よりは高い位置からの撮影が出来るため、比較的よい情報を得ることが出来る。但し、狭隘道路を走る場合など、カメラからごく近い部分の情報はぶれてしまう場合がある。一方都市間を走る高速バス等では、比較的遠目の情報を得ることが中心となる。
  • 鉄道
    路面電車ではバスと同じような状況になる。普通鉄道ではかなりのスピードが出るので、近い部分の情報を得るのは難しくなる。その代わり、広範囲の情報を大量に得ることが出来るようになる。また、高架部分で撮影を行うと、かなりの遠方まで情報を得ることが出来る。但し、新幹線等、スピードが速すぎるものは不適切である。
  • 船舶
    航海中は水面しか写らないため、情報量は少ない。港への出入り時等に撮影をすることが中心となる。
  • 航空機等
    離着陸時に電子機器が使えないため、利用できない。

撮影プランの作成

撮影プランといっても厳密に決める必要はない。撮影範囲と、移動方法を決めたあと、どの辺をどういう形で撮るか、ということを大まかに頭の中に入れておけば良い。以下は考慮すべき点である。

  1. カメラの性能と移動速度
    画角が狭い(より望遠より)なものは、移動スピードが速い場合ぶれやすい。より低速な状況での利用を考える。また、フレームレートが低い場合も、高速で移動した場合にぶれやすい。
  2. 太陽光
    冬期など、太陽の位置が低い場合には、撮影方向によって太陽が入ってしまう場合がある。逆光状態である。その場合、露出が太陽に合わせてしまうため、肝心の建物の情報が暗くなってしまう。また、太陽光が直接入ってこなくても、撮影場所のコントラストが大きい場合にはうまく撮影できなくなる場合がある。特に移動時に暗い所(トンネル等)から出てきた場合には、露出制御が安定する場合までうまく撮影できない。
  3. 全体的な明るさ
    全体的に暗くなってくると、カメラの絞りが広がり、被写界深度が浅くなる。焦点が合う範囲が狭くなる。また、ピントが合いにくくなる、画面の内容を把握する事が難しくなるなど、あとで利用するのが難しくなる場合が多い。少なくとも夕暮れ30分前くらいまでの明るさを確保すべきである。

撮影

すべての場合において、撮影方向は進行方向と垂直が大原則である。進行方向を撮っても意味がない。上横マッピングは、建物の横方向の状況を確認することが目的だからである。

徒歩編

徒歩の場合は、単にカメラを横方向に持って撮影すれば良い。他の方法と違い、撮影方向の自由度が大きいため、その場の状況に応じて随時撮影方法を切り替えれば良い。但し、横方向に注意が行きすぎると、進行方向への注意がおろそかになるので十分注意すること。

交通機関編共通

交通機関を使う場合には、窓にカメラをくくりつける事が出来ると便利である。カメラ用のクリップを利用して、窓枠やその他の出っ張り等にくくり付けば、カメラの撮影だけコントロールするだけで済む。

公共交通機関の椅子は、ロングシートの場合がある。ロングシートの場合、カメラが背の位置になる。この場合、やや斜めに座って撮影することになる。

基本的に進行方向左側に座れば、対向車線からの車にさえぎられず撮影することが出来る。但し、すぐそばの風景を撮影すると、流れてしまってうまく撮影できない場合がある。狭隘路線等では進行方向右側に座り、反対側を撮影するのも手である。但し、この場合は、対向車線を走行する車でさえぎられる場合がある。また、片道2車線以上の大きな道路では、反対側の状況が小さくしか写らない場合もある。

角度の設定

基本的には進行方向と直角、水平方向だが、状況に応じて、俯角、仰角を付けても良い。たとえば高速道路、高架線などを走行する場合には、俯角をつけないと、真下の情報が得られにくくなる。また、堀割等を走行する場合には仰角を付ける。

さらに、状況によっては進行方向に若干向けた方が良い場合がある。看板等、進行方向からよく見え、真横からはよく見えないPOIを拾う場合には、角度を付けると視認性が良くなる。

仰角、俯角、および向きについては固定ではない。実際に走行している状態で、状況を判断して適宜変更する必要がある。

状況によっては解像度やフレームレートを変えても良い。大きな建物、農地や原野等、それほどデータを採取する必要性がない所では、解像度やフレームレートを落とすことでデータ量を大幅に減らせる。

開始、終了のタイミング

短時間での走行であれば、全区間通して撮影してもかまわない。しかし、長尺撮影の場合には、後の処理が大変になる。ある程度小刻みに撮影した方が効率的である。いくつかポイントを列挙する。

  1. 駅、バス停等で動き出した時点を基点とし、駅、バス停等に到着した時点を終了タイミングとする。このときバス停や駅名の情報が撮影できると、どこを撮っていたかが後で確認しやすくなる。
  2. 駅、バス停、交差点等長期間停車する場合には一旦撮影を停止する。こうすることで不要な撮影を大幅に抑止できる。
  3. 駅への到着、駅からの発車においては、完全停止状態で開始、終了を行う必要はない。前述のように、駅名等ガワ刈れば、その時点で開始終了を行っても良い。ホーム端に駅名標がある場合、その時点から停止まで、あるいは発車から駅名標までの時間は10秒単位で時間がかかる。この時間は積み上げると結構な量になる。
  4. トンネル等、撮影に意味がない場所があらかじめ分かっていると便利である。その区間の撮影をあらかじめ抑止できる。ただし、小刻みにトンネルがある場合には、かえって煩雑になる。
  5. カメラの起動時間に注意。シャッターボタンを押してからピントを合わせ、撮影を開始するまで秒単位で遅れる機械もある。このタイミングを理解していないとマーカとなるようなPOIの撮影に失敗することがある。

バス編

バスの場合、進行方向左側、運転士の横の席が一番お勧めである。この席では、全面がよく見えるため、撮影しつつ、これからの状況を把握できる。あるいは、一番後ろの席である。他の席がロングシートでも、一番後ろの席は進行方向を向いた座席になっているからである。

鉄道編

鉄道の場合、ほとんどの場合、先頭に座ることは無理である。これは、先頭部分の乗務員室が大きく、かつ仕切られているからである。比較的見晴らしの良い、車両の真ん中辺に座ることを推奨する。

また、混雑時には立たざるを得ない場合がある。この場合、ドアの所に立てば撮影が容易になる。

鉄道の場合、地表を走る以外に、高架や堀割、トンネル部分がある。高架部分については、防音等のために壁がある場合がある。この場合は高い位置で撮影しないとうまく撮影できない。

撮影後の処理

基本的には以下の流れになる。

  1. 対象となる領域のアームチェアマッピング作業の準備。これは、お好みのツール(Potlatch、JOSM等)を使えば良い。
  2. Bing画像をベースとして表示する。
  3. 上記の準備をした後、撮影した画像を表示し、Bing画像と目視でつきあわせ、マッピング作業を行う。

同時に2つの画面を表示する必要があるため、画面は広い方が好ましい。但し、XGA解像度(1024*768)くらいでも、若干煩雑ではあるが十分処理は可能である。理想は2台のコンピュータがあると良いかもしれない。